「おいしいよ。前に先輩の家で食べたユリアンのアイリッシュ・シチューより」
「本当に?」
「ああ」
「……気を遣わなくていいのよ」
「本当だってば」
「ごめんなさい」
さすがには赤くなった。
「でも、なんとなく懐かしい気がするんだ。レシピは実家から持って来たのか?」
「ええ」
「なるほど」
それで懐かしさの理由は説明がつく。
「ちなみに、他のレシピも……?」
は笑った。
「あんまりたくさんじゃないけど、あるわよ」
「そっか」
アッテンボローがそこで言葉を止めたのには理由があるのだが、それについては何も言わない。
「よかったわ」
「だから言っただろ? おれは心配してないって」
「そうね」
は笑ったが、その後のアッテンボローの行動には苦笑いすることになる。
「……あのね、ダスティ」
「何だ?」
「理由はよく知ってるけど、わたしが作った料理のじゃがいもにまで八つ当たりしないでくれる?」
アッテンボローはさすがにバツの悪い顔になった。
「悪い。じゃがいもを見るとどうしてもドーソンの野郎を思い出してさ」
「もう10年くらい前のことでしょうに」
ドーソンとはアッテンボローとの士官学校時代の教官である。
「……わたしたちの入学年次に新入生の生活指導主任だったもんね。ダスティとはそこから因縁が始まったんでしょ」
「それでやっといなくなると思ったら、おれたちの卒業と同時だったもんなあ」
は笑った。アッテンボローがドーソンとじゃがいもを結びつけるのには立派な理由がある。ドーソンはどこかの艦隊の後方主任参謀をつとめたとき、食糧のむだを調査するという名目でダスト・シュートをのぞき回り、じゃがいもが何十キロか捨ててあったと発表して兵士たちをうんざりさせたのである。
「おれはああいう奴には脊髄反射で反抗したくなるんだ」
「はいはい、よく知ってるわよ」
そして、はまだ笑っている。
「ダスティってさ、少佐になったくらいからいろんな艦隊に所属してたでしょ?」
「ああ」
「それってつまり、見どころはあるけど性格に難があると見なされてて、誰の下なら上手くやれるか試されてたんじゃない?」
アッテンボローはまたじゃがいもにフォークを突き刺した。
「……そうかもしれない」
「で、最終的にウランフ提督が引き取ってくれたと」
「だろうなあ」
はとうとう声を出して笑い始めた。
「そんなに笑うなよ」
「だっておかしいんだもの……。よかったわね、今の上司がヤン提督で」
「本当にな。先輩も言ってた通り、イゼルローンにはそんな奴らばっかりだけど」
「そうね」
の言う「見どころはあるが性格に難がある」メンバーが自分だけではないことは、少なからずアッテンボローの精神衛生に寄与しているようである。それに気づいて、はまた笑った。
「そろそろ片付けるか」
「うん」
「作ってもらったし、おれがやるよ」
「ありがとう。じゃ、わたしはコーヒーを淹れるわ」
「ああ。こういうときに同じ設備だと便利だな」
「そうね」
食器を片づけると言っても、食洗機に入れてスイッチを入れるだけでほぼ終了である。それも終わって棚に片付けるのと、コーヒーが入るのはほぼ同時だった。
「どうぞ」
「ありがとう。しかし、イゼルローンに来てが大人になってからどんな生活してるのか、よく分かった」
「感想は?」
「おれよりはるかにちゃんとしてる」
は笑った。
「そうかなあ」
「いや、間違いなくそうだって」
力強くそう言うと、は今度は赤面する。
「……自分だけだから、そうなんだからね」
「はい、分かっております」
視線を逸らしつつそう言うを見て、アッテンボローは小さく息を吐く。
(でもまあ、これじゃ……。期待するよなあ)
はその気持ちを見透かしたかのように、にっこり笑った。
「それで、わたしはいつ泊めてもらえるの?」
「…………」
「ダスティの家に泊めてもらえるまで、もううちには泊めないから」
そう言ったの琥珀色の瞳は完全に真剣である。無理もない。
「……分かった。でも、夕飯を作るのはもう少し待ってくれないか? さすがに今のおれにはハードルが高すぎる」
「そうかもしれないわね」
「ありがとう。助かる」
アッテンボローはホッとしてそう言い、の頬に唇を寄せた。
二日の休みはさすがに余裕がある。翌日の夕方まで一緒に過ごしてから、アッテンボローは徒歩10秒の距離にある自分の家に戻った。玄関先に文字通り放置していた洋服の入った袋を回収し、リビングに戻る。
(現実に戻った感じだな)
持って行った着替えや買った洋服を整理しながら、だんだんと仕事のことへと頭を切り替える。
(明日はデスクワークで、それからまた艦隊運用演習か……。の体調が問題ないといいけど。あ、おれは例の素案作りもあるのか)
そもそも艦隊行動に反映させるためのものなので、素案ができなければ何も進まないのである。
(そろそろ本腰を入れないとな)
休み明け、はやや早めに司令部へと出勤した。艦隊運用演習の日は宇宙港から直帰する日が続いていたので、オフィスに来るのも久しぶりである。当然と言うべきか、オフィスにはまだ誰もいない。自分の席に座り、掌紋で端末を起動させる。予想通り、処理すべきものはそれなりに溜まっていた。
軽く息を吐いてどれから取りかかるか考え始めたとき、オフィスにドアが開く。
「おはようございます、艦長」
「おはようございます」
現れたのはペトルリークであり、は微笑んだ。
「こういうときはきっと普段より早くいらっしゃると思いまして……。正解でしたね」
「ええ」
「お身体の調子はいかがですか?」
「ご心配おかけしてすみません。一晩休んだらよくなりました」
「それは何よりです」
そして、この会話は部下たちが来るたびに繰り返されることになる。
(心配してくれるのはありがたいけど……)
最後にやってきたハールマンに同じ質問をされたとき、はとうとう苦笑いを浮かべた。
「すみません、何度も聞かれているのですな」
「……ええ、正直に言えば」
「小官も気をつけます。申し訳ありません」
はうなずいた。
「艦長、例の哨戒に回す戦艦を選びました。確認していただけますか」
「ありがとうございます、ベイリー少佐」
体調不良もあってすっかり忘れていたのだが、確かにベイリーにそう頼んでいたのである。
「今からデータを送ります」
そう言って送られてきたデータをざっと確認する。
「ポラリス、ユリシーズ、デネボラ、エラキス、レーヴァティ……ですか」
「はい。理由もざっと書きましたが、必要なら艦隊運用データをご覧ください」
はキーボードをたたき、添付されたデータを表示させた。それを見ながら、ふと気づいたことがある。
「ユリシーズって、あの……?」
「ええ。アムリッツァ会戦でトイレを壊された戦艦です」
それは必ずしも事実そのものではないのだが、は微笑した。
「……なるほど、これなら問題なさそうです。お疲れさまでした」
「ありがとうございます」
送られてきたデータをスティックに移し、端末の電源を落とすとは立ちあがった。
「では、データ検証に行ってきます」
「行ってらっしゃいませ」
「おはようございます。中佐ですが」
「入ってくれ」
「失礼いたします」
が隣のアッテンボローの執務室に行くと、今日はきちんとデータ検証のための準備が整っていた。
「おはようございます、アッテンボロー提督」
「おはよう」
そう言いながらどこか複雑な表情をしている理由に気づき、は笑いをこらえる。
「帝国方面へ哨戒に出す戦艦のリストをベイリー少佐が作ってくれました。確認をお願いします」
「……ああ」
「今後、こういうことがあったらメールで送信してもよろしいですか」
「いいけど、できれば今みたいに直接持ってきてほしいなあ」
「それは、小官の都合によります。いつから哨戒を始めるのですか?」
「たぶん年内じゃないか」
「かしこまりました」
はそう言ってうなずいたが、一方のアッテンボローは完全にプライベートモードである。
「艦長……。おれはさびしいんだけど」
「時と場合を弁えてください、提督」
「……分かってる」
それでもファースト・ネームを呼ぼうとしないだけマシなのかもしれないが、は半ば呆れながらそう言った。これではどちらが上官か分からない。ため息とともにアッテンボローがそう答えたとき、ノックの音がする。
「はい」
「ストリギン大尉です。ラオ中佐もいらっしゃいます」
「入ってくれ」
「失礼いたします」
ラオとストリギンが入ってくると、まずはラオがを見る。
「中佐、遅くなってすみません」
「いえ」
「じゃ、始めようか」
気を取り直したらしいアッテンボローは一同に向かってそう宣言した。
ひと通りのデータ検証が終わると、ラオはアッテンボローに言った。
「そういえばアッテンボロー少将、例の素案づくりは進んでいるのでしょうか」
「これからやる」
「……できれば年内に行動基準作りをスタートできたらいいと小官は個人的に思っているのですが」
「そうだよなあ。早めに作るよ」
「ええ、お願いいたします」
ここで自分の体調不良の件を持ち出されたら反論してやろうとは心に決めていたが、さすがにそれはない。
「じゃ、これで終了にする」
「お疲れさまでした」
は何か言われる前に席を立った。
「…………」
時刻は昼近くである。
(結局、データ検証は午前中いっぱいかかるのね)
分艦隊の艦隊運用のデータを数日分まとめて見るのだから、ある程度、時間がかかるのはやむを得ない。だいたい、これくらいの時間がかかるものと思っていたほうがよさそうだ。
「戻りました」
「お帰りなさいませ」
そう言ってくれる部下たちに軽くうなずきながら、掌紋で端末の電源を入れる。ちょうどそのとき、時計が視界に入り、は昼休みになったことを知った。
(…………)
「艦長、お仕事の前にお休みください」
「……そうします。特に急ぐものもないですし」
特に示し合わせたわけではないが、行先は同じ士官食堂である。何となく5人で連れ立って歩く。幸い、今日はさほど混雑していなかった。メンバーが揃うのを待って食事に手をつけるのも、いつも通りだ。
「艦長は今までどんな方面でキャリアを重ねて来られたのですか?」
たいてい、こういうことを聞くのは決まってハールマンである。そして、ベイリーとノールズがどこか緊張した顔をするのだが……。
「士官学校卒業生の常として、一通りは経験しました。その中では、運航がいちばん得意だったかもしれません。次はオペレーターかな」
「なるほど」
「……ご自分が運航関係にお詳しいので、部下への要求も高くなるのですが」
そう言ったのはペトルリークである。
「そうですか?」
「まあ、艦長の要求が高いのは運航に限りませんけどね。ノールズ少佐、艦長はアムリッツァ会戦のときに『まともに撃ち合っても勝ち目はないから、戦艦の死角から装甲の薄い部分を狙え』とおっしゃっていましたよ」
「…………」
は赤面した。
「……本当ですか、艦長?」
「ええ。でもメイヴは旗艦ですから、そこまで細かく指示を出すか分かりませんが」
「ですよね」
ノールズは明らかにホッとしたようだった。
「いいんです。遠慮なくそういう指示を出してやってください、艦長」
「セシル……。お前、自分が関係ないからってそういうこと言うなよ」
「厳しい要求があると思ってたほうがいいさ。そうすれば、通常の指示が楽に感じるだろ」
「それはそうだけど……」
は笑った。
「ノールズ少佐はよくやってくれていますよ。とりあえず、アッテンボロー提督は例の一点集中戦法をきちんと実行したいと思っているようですから、まずはそれを確実にお願いします」
「承知いたしました。ありがとうございますっ」
「ペトルリーク大尉、いつもわたしを支えてくださってありがとうございます。メイヴの運用にはさほど心配はないと、提督がおっしゃっていました」
「いえ……。引き続き、努力いたします」
「ハールマン大尉は、まだここに来て間もないのによくメイヴの機能を分かってくださるのに感心します」
「……過去に同種の戦艦に乗艦したことがあったものですから」
「それでも、です」
は意識して微笑んだ。
「ありがとうございます」
「そして、ベイリー少佐にもたくさん助けていただいていますね」
「そんなことは……。副長として当然ですから」
「感謝しています」
「……恐縮です」
は食事中の部下たちを見渡した。
「わたしは部下に恵まれていると思います。提督に感謝しないと」
多少大げさな言い方だったと受け取ったようで、ベイリーは苦笑いした。
「艦長、小官らはまだ演習しかしておりませんが」
「演習で部下を信頼できなければ、戦闘に臨めません」
「……それは、そうですね」
「引き続き、よろしくお願いします」
「承知いたしました」
「はい」
「かしこまりましたっ」
「もちろんです」
四人四様の返答をよこす部下たちに微笑みながら、はこっそり別のことを考えていた。
(……でも、デスクワークのお昼が毎回これじゃ疲れるわね)
午後からは演習中にたまったデスクワークをこなす。そろそろ要塞防御システムについて考えようかと思ったころには定時になっていた。
(少しくらいなら残っても大丈夫かな?)
とはいえ、明日からはまた艦隊運用演習である。残ったとしてもあまり長時間になるのはまずい。
「わたしはちょっと残りますので、みなさんは気にしないで帰って構いませんよ」
「いえ、そういうわけには……」
「いいですから」
否定しなければならないのが部下の立場なのは理解していても、それがあまり続くとこちらも余裕がなくなる。
「……あまり長く残るとお身体が心配です」
「ありがとうございます、ペトルリーク大尉」
結局、こういう場をおさめるのはペトルリークなのである。なおも心配そうにベイリーやノールズ、それにハールマンがこちらをうかがっていることには気づいていたが、あえて気づかないふりをした。
「これ以上あれこれ言うと艦長がお怒りになられます。仕事が済んだら吾々は帰りましょう」
「……そうですか」
「はい。小官には分かりますから」
その言葉に、まずハールマンが腰を上げた。
「では、お先に失礼いたします」
「ええ。お疲れさまでした」
続いてベイリーとノールズが席を立つ。最後にペトルリークが席を立つとき、また先ほどと同じ種類の言葉を繰り返した。
「艦長、ほどほどになさってくださいね」
「ありがとう。気をつけます」
はそう答えたが、あまり信用されていない気もする。
(でも、こう答えるしかないし)
オフィスに一人で残されると、は大きくため息をついた。
(むしろ、艦隊運用演習よりもデスクワークのほうが慣れてないのかも)
それぞれ費やす時間が違うので、やむを得ないことではあるが……。
(どうしよう)
迷ったのは事実だが、は結局アッテンボローの私用の端末に通信をつないだ。
『どうした?』
「今、大丈夫?」
『ああ』
「じゃ、ちょっと行ってもいい?」
『もちろん。待ってるよ』
端末を保存して電源を落とし、オフィスには念のため鍵をかける。分艦隊司令官の執務室前には幕僚たちの席があるが、そこは見事に無人だった。は苦笑いしながら、執務室のドアをノックする。
「中佐、まいりました」
「入ってくれ」
「失礼いたします」
が執務室に入ると、アッテンボローは立ち上がる。
「珍しいな、が来るなんて。どうした?」
「疲れたの」
「ん?」
「だから、キスして」
いつものソファの前でそう言うと、アッテンボローは笑った。
「いいけどさ、はそういうのが嫌じゃなかったのか?」
「……してくれないなら、もういい」
「まさか」
ぷいっと音がしそうな勢いでそっぽを向くを、何も言わずに抱きしめる。
「座ろうか」
「……うん」
そう言ってソファに座ってから、もためらいがちに腕を伸ばす。アッテンボローはそれに気づいて笑い、すぐに唇を重ねた。角度を変えて何度も唇を重ね、息が限界になる直前にようやく唇を離す。
「どうしたんだ?」
「だから、疲れたのよ」
「要塞防御システムの件か?」
「……それはまだ手を付けてないの。そろそろ取りかからなきゃと思うんだけど、通常のデスクワークもあるし……」
「そうか、無理するなよ」
「よかったわ、ダスティが残ってて。そっちは例の素案作りでしょ?」
「ああ。ラオに早くしろって釘刺されたし」
「そうね」
は笑った。
「でも、何とか年内にできそうだ。早いうちに、誰かに各艦の代表者選びを頼まないと」
「……またベイリー少佐かしら?」
「だろうなあ」
今度はが苦笑いする。
「わたしは不当に艦長業務を免れてるみたいだわ」
「そんなことないって。旗艦は通常戦艦よりもやることが多いんだ。おまけにには要塞防御システムもある」
「……体調に不安もあるし?」
「まあ、な」
宇宙に出ないときに体調不良が出ないことは分かっているので、アッテンボローは何も言わない。
「とにかく、が気にする必要はないよ」
「それはいいけど……。行動基準を周知するのは各艦の艦長たちと、それから中級指揮官にもじゃない?」
「それもそうだ」
アッテンボローははっきりと苦笑いした。
「がいろんなところに気づいてくれて助かるよ」
「……ありがとう。ついでに、もう一つお願いしてもいい?」
「どうぞどうぞ」
「デスクワークの日は何となくメイヴの幹部みんなで士官食堂に行くんだけど、毎回だと落ち着かないし疲れるの。あんまり露骨にならない程度に、適当な名目でわたしを連れ出してくれない?」
意外な申し出に、アッテンボローは笑った。
「お安い御用だ。ついでにラオも一緒にいれば、おれが連れ出してるのはそんなに目立たないだろ。ただ、それだとポプランが寄って来そうだけど」
「そうね」
はためらいながらも結局は思ったことを口にした。
「……でも、ポプラン少佐といるほうが気楽かも。何と言うか、ちゃんと気心が知れてるのはまだペトルリーク大尉だけだし……。いずれ気にならなくなるとは思うけど、さすがに今はちょっと」
「それもそうだ」
仕方がないこととはいえ、部下たちはみんな年上の男性なのである。それよりも、同世代の直接関係ない部署の人間と一緒にいたほうがいいとが考えるのはごく自然だった。
「じゃ、昼休みになったらオフィスに行くよ」
「……ありがとう、ダスティ」
そう言っては花が開くように微笑んだ。一方のアッテンボローは苦笑いしながら頭を振ったものである。
「……。ここでそんなふうに笑わないでくれ。仕事する気がなくなる」
「……ごめんなさい」
「うーん……。やっぱり帰るか。そっちはどうだ?」
「すぐに帰れるわ」
「じゃ、帰ろう」
相変わらず、こういうときのアッテンボローの決断は素早い。それでもは苦笑いした。
「ごめんなさい、わたしがダスティの仕事の邪魔をしたみたい」
「いや、いいんだ。このくらいでやめておかないと、明日の艦隊運用演習にさしつかえる」
「何が?」
「の体調がに決まってるだろ」
「……ごめんなさい、いろいろと」
「いいって」
そう言ってまたアッテンボローがの頬に唇を寄せたとき、アッテンボローの端末が鳴った。何気なく端末を操作したアッテンボローがやや目を見張る。
「どうしたの?」
「イゼルローン要塞が同盟軍の手に渡ってから、最初の殺人事件が発生したそうだ」
「へえ……」
の端末にそのメッセージは来ていないから、それはまず幕僚たちに第一報がもたらされたということである。
「これから司令部に行く?」
「いや、そこまでの必要はなさそうだ。容疑者ははっきりしてるみたいだし、MPと法務士官の権限で何とかなるだろう」
「そう」
「たぶん、そのうちニュースになるんじゃないかな」
そう言いながらアッテンボローは首をかしげており、は笑った。
「ダスティはこの件が気になるみたいね」
「まあな」
「帰るんじゃなかったの?」
「帰りたいけど、続報も気になる。ついでに言えばと一緒にいたいし、このことを気兼ねなく話したい」
はため息をついた。贅沢な言い分だが、それを解決する方法を思いついたのだ。
「どこかで夕食を買ってうちで食べる?」
「それだ!」
「ただし、泊まらずに帰ってよ」
「……だよなあ」
「当たり前です。それが嫌なら最初から……」
「ごめんなさい、素直に帰るって約束します」
こうなるとアッテンボローは弱い。は笑いながらアッテンボローの胸に頭をもたれかける。
「帰りましょう。ここにいても仕方ないもの」
「そうだな」
もう一度唇を重ねてから、アッテンボローはを解放した。
必ずどこかで書こうと思っていた、お約束のじゃがいも虐待です(笑)。
2019/6/11up
2019/6/11up