05

 というわけで、結局、予定していた残業はほぼしなかった。司令部を出て、いつものラパン・ドールで総菜を買い、の家にやって来る。
「お邪魔します」
「どうぞ。わたしは着替えるけど、気にしないでね」
「ああ」
 ちなみに、帰宅途中にも何度かアッテンボローの端末には事件の続報がもたらされているようだった。は着替えてメイクを落とし、買ってきたものをテーブルにセットする。
「じゃ、いただきましょうか」
 はそう言ってナイフとフォークを手に取ったが、アッテンボローはどこか落ち着かない様子だ。
「別に遠慮しなくていいわよ。殺人事件の話をしたいなら、どうぞ」
「じゃ、ちょっと行儀が悪いけど失礼する」
 アッテンボローはそう言って端末を操作し、一連のメッセージを表示させた。

「どんな事件?」
「事件現場はバーらしい。A下士官とB下士官が昔から民間人のミスCをめぐって争っていて、それがイゼルローンで再燃して、B下士官を嫌ったミスCがはずみで射殺したんだそうだ」
「へえ……」
「物騒な痴話喧嘩だよなあ」
 アッテンボローは苦笑いした。
「そうね」
「で、まだ続きがあるんだ。そのA下士官ってのが、この間の幽霊事件で隠れていた奴なんじゃないかとも言われてるらしいけど、病院のほうは何もコメントを出してないから、これは噂の域を出ない」
 これを聞いたも苦笑いする。
「そりゃそうでしょ、医療関係者には守秘義務があるんだから……。患者のことをぺらぺら話されちゃたまらないわ」
「おれも同感だよ」

「で、ダスティはどうしてこの事件が気になるの?」
 アッテンボローは頭をかいた。
「何となくとしか言えないなあ。強いて言えば、裏に何かがある気がするって言うか」
「……何かがあってほしいと思ってる?」
「かもしれない」
 二人は顔を見合せて笑った。
「ま、ここであれこれ考えてても仕方ないな」
「ええ」
「ごちそうさまでした」
 食事を終えると、アッテンボローはを見た。
「……コーヒーが飲みたい?」
「ご名答」
「いいけど、飲み終わったらちゃんと帰ってよ。そういう約束なんだから」
「はいはい」
 テイクアウトの容器を軽く洗って片付け、カフェインの入っていないコーヒーを淹れる。


「ソファに行ってもいいか?」
「どうぞ」
「おれは自分の家よりもこっちのほうが落ち着くんだよなあ」
 思いがけない言葉には赤面した。
「……何で?」
「決まってる、の家だからだよ」
「じゃ、わたしがいなくてもいいのね」
「そんなわけないだろ」
 コーヒーカップを一つ受け取り、口はつけずにまずテーブルに置く。何をされるか察したも同じようにカップをテーブルに置くと、すぐに抱きしめられた。
「こうやって……ちょっとの時間でも一緒にいられて、うれしい」

「ありがとう。わたしも……仕事終わりにダスティに会いに行ってよかったわ。また行ってもいい?」
「もちろん」
 家であれば何も気にする必要はないので、すぐにまた唇を重ねる。息を止めるのに我慢できなくなる寸前で唇を離すと、はアッテンボローの薄い胸に顔を押し付けた。
「もう完璧にタイミングを把握したわね」
「当然だろ?」
 そう言いながら、の鳶色の髪を撫でる。
「こうやってダスティがいろいろフォローしてくれるから、わたしは旗艦の艦長ができていると思うの」
「おれは大したことはしてないよ。のもともとの力だって」
「そう?」
「ああ。あんまり自分を卑下するのはよくないぜ」
「……気をつけるわ」


 は苦笑してテーブルに置かれたコーヒーカップを手に取った。
「ちょっと冷めちゃった」
「仕方ないな」
 そう言ってアッテンボローもカップを取って傾ける。
「……くり返すけど、帰りたくないとか言わないでよね」
「分かってるって」
「本当かしら」
 先ほどまでの表情はどこへやら。は完全に冷静さを取り戻したようで、さすがにアッテンボローも苦笑いする。
「おれは信用ないんだなあ」
「こういうことで余計なエネルギーを使いたくないの。明日からまた艦隊運用演習なんだから」
 さすがにここまで言われれば、アッテンボローも納得せざるを得ない。
「体調、大丈夫か?」
「うん。だいぶ落ち着いた」
「……なるほど、それはよかった」


「ちょっとだけ仕事の話をしていい?」
「ああ」
 は腕の中からアッテンボローを見上げた。
「明日の昼休みにベイリー少佐を呼んで、艦隊行動基準の素案作りに協力してくれる艦長を選んでもらう件を話したらどう?」
「そうだなあ。演習中はなかなか落ち着いて話ができないし」
「でも、戦艦の艦長ってこんなものなの?」
「ん?」
「ずいぶん副長を頼ってる気がするんだけど……」
 が首をかしげながらそう言うと、アッテンボローは笑った。

「おれは戦艦の艦長をやったわけじゃないから、詳しくはないけどな。でも、今のとベイリー少佐の仕事の負担が極端に偏ってるとは思わないよ」
「……そう」
「相変わらずは心配症だなあ」
 そう言ってまた頬に唇を寄せる。
「分かった、おれも気をつけてる。ま、ベイリー少佐が直接おれに抗議するようなことはないと思うけど」
「……ありがとう、ダスティ」
「どういたしまして」
 アッテンボローはそう言ってカップのコーヒーを飲みほした。さすがに、そろそろ帰らなければならない時間である。

「じゃ、そろそろ帰るよ」
「うん。わたしもこれからすぐお風呂に入って休むわ」
「そうするといい」
 未練を振り払ってソファから立ち上がり、玄関に向かう。もちろん、もその後をついてきた。
「お休み」
「……お休みなさい」
 軽く上を向いて目を閉じると、次の瞬間には唇にやわらかい感触がある。が目を開けると、アッテンボローは笑い、そのまま玄関を開けて出て行った。
 そのまま鍵を閉めてチェーンをかけ、大きく息を吐く。
(ダスティに言った通り、休まなきゃ)
 明日からはまた艦隊運用演習なのである。


 ふと気がつけば、796年もあと1週間余りだった。
(艦隊運用演習は……今日を入れてあと6日間か)
 分艦隊司令官の意向で12月31日は演習が入っていないし、年明けの演習は4日からである。
(あれ?)
 12月31日夜といえば新年のパーティだが、そういえば、ここでも開催されるのだろうか。
(……まあ、それがなくてもぎりぎりまで演習はしないでしょうけど)
 それでも、気になったことは確認しておく必要があった。


「よし、では昼休みにする。艦長と副長は来てくれ」
「……小官もですか?」
「ああ、話したいことがあるんだ」
「かしこまりました」
 アッテンボローが司令席から降りてくるまでに、ベイリーはに近づいて不安げにこう言った。
「少将は小官にいったい何の用でしょう」
「大丈夫です、別にお説教ではありませんから」
「……なら、いいのですが」
「行きましょう」

 は歩き出した。駆逐艦の艦長時代からだが、こうして年上の男性の部下をしたがえることを何とも思わなくなっている自分に気づく。士官食堂のいつもの場所に座っても、ベイリーは明らかに緊張していた。
「ベイリー少佐、そんなに緊張しなくても……」
「艦長やラオ中佐は慣れていらっしゃるでしょうが、小官は少将とご一緒するだけで緊張します」
「そうか、ベイリー少佐にはそれが普通なのか」
「ええ」
 緊張すると指摘された当人も平然としている。注文を済ませると、はあえて雑談することにした。


「提督。直接関係のないことで恐縮なのですが、質問があります」
「何だ?」
 はちらりとベイリーを見た。
「31日は演習が入っておりませんが、これは新年パーティに備えてのものですか?」
「その通り」
「……ということは、新年のパーティは開催されるのですね」
「悪い。そういえば言ってなかったな」
 アッテンボローは苦笑いした。

「ムライ少将は最前線なのにパーティで浮かれるなんてって抗議したらしいけど、シェーンコップ准将とポプランがそれよりも新年パーティのほうが大事だって主張したんだ。で、ヤン提督はスピーチさえしなければ別に問題ないだろうって」
「なるほど」
「ま、このメンバーで戦争中でもないのに新年パーティをしないほうが想像できないけどな」
「……小官も同感ですね」
 おそるおそるそう言ったのはラオである。
「あ、でも艦長はそれこそシェーンコップ准将とポプランに気をつけろよ。何ならおれがそばにいるから」
 さすがには赤面した。
「……恐縮です」


「お待たせいたしました」
 ちょうどそのときに食事が運ばれてきて、一同は揃ってナイフとフォークを取った。
「艦長、食欲は……?」
「今日は食べられそうです」
「そうか、よかった」
「提督、そろそろ本題に入りましょう」
「そうだな」
 あまり引っ張っては緊張しているベイリーが気の毒である。
「例の艦隊行動の基準作りが進んでいるんだ。ベイリー少佐に、そろそろ各艦の代表者を選んでもらいたいと思って」
「……なるほど、そういうことですか」
「ああ。演習中はこういうときでもないとゆっくり話せないから」
「かしこまりました」

 そう言ってから、ベイリーは何かに気づいたようである。
「哨戒の件と同じく、艦隊運用に不安の少ない艦長を選んだほうがいいですよね」
「ああ。それから、この基準は艦長だけでなく中級指揮官にも周知しなきゃならない」
「かしこまりました」
 ベイリーははっきりとうなずいた。
「各艦の代表者選定の件も承知いたしました。次のデスクワークの日に検討いたします」
「ありがとう」
 アッテンボローはそう言ってちらりとを見た。
「それから、艦長が仕事の負担が副長に偏っているのではないかと気にしているが」
「提督!」
「……少将、それに艦長もお気遣いありがとうございます。小官は別に気にしておりません」
「それならいいのですが……」

 はそう言って小さく息を吐いた。仕方ないことだが、ベイリーがいるだけでどうも調子が狂う。
「少将。小官の用事はそれだけでしょうか」
「ああ」
「大変申し訳ないのですが、ここにいるとどうも落ち着きません。失礼させていただいて構いませんか」
「そうかもしれないな、悪い」
 何気なくが士官食堂を見渡すと、そこにはノールズがぽつんと一人で食事を取っているのが見える。
「では、お言葉に甘えて」
「よろしくお願いします、ベイリー少佐」
 は意識して微笑んだ。


 そうしてベイリーが食事のトレイを持って向かったのは、当然ながらノールズの元である。
「お疲れ。何の話だった?」
「艦隊行動の基準の素案がまとまりつつあるから、分艦隊から行動基準選定の艦長を選んでくれって言われた」
「そうか」
 ベイリーはちらりと今までいた席を見た。
「……正直な話、食事が変なところに入ったみたいだ」
「だろうなあ」
 一方のノールズは気楽である。
「おれがあんまり緊張してたからだと思うけど、艦長が少将に新年のパーティはやるかって聞いてたんだよ。もちろんやるみたいなんだけど……」

「どうした?」
「少将が、艦長にシェーンコップ准将とポプラン少佐に気をつけろって言ってた。何なら一緒にいるからって」
「で、艦長の反応は?」
「赤くなって、恐縮ですって。かわいかったし、少なくとも嫌がってる感じじゃなかった」
 ベイリーがそう言うと、ノールズはごく小さく口笛を吹いた。
「だから言っただろ? 少将はもうばればれだけど、艦長も満更じゃないって」
「ああ、よく分かったよ」
 その声に落胆の響きはない。

「ショックか、セシル?」
「……そうでもないんだな、これが」
「そうか、よかった」
「何がよかったんだよ」
「おれは最初からそう言ってたじゃないか。ま、じゃ思ったよりショックじゃない理由を聞こうか」
 ベイリーはちらりとまた幕僚たちを見た。
「……おれは艦長と並んで歩けない」
「はあ?」
 ベイリーはノールズを見て苦笑した。

「上手く説明できないんだが……。今まで何度かみんなで士官食堂に行ったし、おれが少将に執務室に呼び出されて艦長と一緒に戻ってきたりしただろ? さっきもそうだけど、そのたびに思うんだ、おれはとてもじゃないけど艦長とは並んで歩けないってね。せいぜい一歩下がるか、もし前を歩くような状況なら、それはおれが艦長をかばう必要があるときだ。肩を並べて歩くのは、どうしても気が引ける」
 ノールズはその言葉に神妙にうなずく。
「何となく分かる。たぶん、おれも無理だな」
「だろ? でも、少将は違う。いつだったか、少将と艦長が一緒に艦橋に来たときがあっただろう?」
「ああ」

「そのとき、艦橋の緊張度は明らかにいつもと違ってて、おまけに、二人が並んで入って来た様子は絵みたいだった」
「……そうだな」
「あれを見たら、もう何も言えないさ」
 ノールズは黙ってうなずき、ベイリーの肩を叩いた。
「やけ酒なら付き合うぞ、セシル。ただし休み前にな」
「そこまでじゃないよ。ヘンリーの忠告に従って、さほど深入りしなかったから」
「じゃ、むしろおれに一杯おごれ」
「そうだな」

 そう言ってベイリーが笑う。そして、今度はノールズが幕僚たちのいる席をちらりと見た。
「……両思いなのかな、あの二人」
「さあ。意外と両片思いだったりして」
「だとしたら全力でくっつけたいけど、あんまりやると艦長が怒りそうだ」
「あり得る」
 笑いながらベイリーがまた幕僚たちの席を見ると、まともにと目が合った。
「……まずい」
「どうした?」
「艦長と目が合った。この話はここまでにしとくか」
「ああ」


 一方、笑い話で済まないのがを含めた幕僚たちである。
「さっきからベイリー少佐とノールズ少佐がちらちらこっちを見てるんだけど……。絶対、わたしたちのこと噂してるわよ」
「いいじゃないか、別に」
「新年のパーティのことなんか聞かなきゃよかったわ」
 そう言いながら食事を口に運ぶ。
「艦長は緊張しているベイリー少佐のフォローをされたのですよね?」
「はい。でも、提督がシェーンコップ准将とポプラン少佐に気をつけろとか言うから」
「そのどこが問題なんだよ」
「問題なのはその後。なるべく一緒にいるとか、事情を知らないベイリー少佐の前で言わないで」
「……そうか、悪い。つい本音が出た」
 アッテンボローは苦笑いした。

「そろそろおれたちの関係、暴露するか」
「……どういうタイミングで?」
「それが問題だよなあ」
 は小さく息を吐いた。
「今思えば……もし言うなら最初の演習のときだっただろうけど、あのときはそんな余裕なかったし」
「……もしそうされていたら、お二人は演習どころではなかったでしょうね」
「ええ。演習を何だと思ってるのかって乗員の反感を買ってもおかしくないわ」
「艦長が乗員ならそう思うだろうな、確かに」
 は改めてアッテンボローを見た。
「提督」
「何だ?」
「あんまり開き直らないでね」
「……分かった」


「そういえば、例の殺人事件だが……。ラオ中佐も知ってるだろう?」
「ええ、大まかなところは」
「おれは何か裏があると思ってるんだが、どう思う?」
 は苦笑いした。
「提督のは予想じゃなくて願望でしょ」
「……小官も同感ですね」
「やっぱりそうか」

 アッテンボローは頭をかいた。その辺り、一応の自覚はあるようである。
「これについて情報を持ってるのは誰かなあ」
「もちろんヤン提督じゃない?」
「でも、先輩はおれに話してくれない気がする。そうだ、ユリアンに聞こう」
「…………」
 は苦笑しながらラオと顔を見合わせた。
「というわけで、おれは演習が終わったらユリアンに会いに行ってくる」
「お好きなようになさいませ」


 少しずつ艦隊運用演習に手ごたえを感じながら、時は過ぎて行く。翌日、が艦隊運用演習のため宇宙港にやってきたとき、あるところに列ができているのを発見した。何だろうと一瞬考え、そういえば今日は給料日だったと思い出す。
(どうしよう……。でも、今じゃなくてもいいか)
 軍人の生活は基本的にキャッシュレスである。士官食堂や自動販売機などは全てIDで管理されていて後日天引きされるし、戦艦の中でも同様だ。したがって、週末までに下ろせばいいということになる。
(あ、でも休日だと手数料がかかっちゃう。それに、体力が持つかな)
 現時点でにとって累積疲労は無視できないのだ。
(明日以降にしよう。忘れないようにしないと)

 ちなみにそうしてが受け取った中佐の給料の額は、予想以上だった。
(何よ、これ)
 思わず端末で給与明細を呼び出したものである。基本給が上がっているのももちろんだが、その他にも各種手当が諸々つく。一つ一つの額はさほどではなくても、まとまればやはり相応の金額になるものだ。
(……貯金しておこう)
 少なくとも、一般的な金額であれば金銭は邪魔になるものではない。そして、は精神的な自由は経済的な裏付けがあって初めて成り立つことを知っていた。ただ、我ながら芸のない結論だと思うが……。
(これから先、何があるか分からないし)
 あることを思いついて、は一人で赤面した。


 今週の予定は艦隊運用演習が4日間であり、続いてデスクワークの日がある。その翌日はようやく休みで、その次の週はもう新年だ。そして、データ検証とデスクワークの日に約束通りアッテンボローは昼休みにを呼びに来て、士官食堂までの廊下で意を決して言ったのが次の言葉である。
「急で悪いけど、今日の夜に泊まりに来ないか?」
 内容が内容だけに声は低い。は驚いてアッテンボローを見た。
「……意外と早かったですね」
「おれは本気なんだ」
「何に対してですか?」
「早く一緒に住みたい」

 意図的に耳元にささやかれたのと相まって、は盛大に赤面した。
「ここでそんなことを言わないでください、少将閣下」
「……そうだな、悪い」
 どう考えてもこういう話題にふさわしい場所ではないので、アッテンボローは頭をかく。
「一言だけ言ってもよろしいですか」
「ああ」
「……ばか」
 それだけ言ってはそっぽを向く。アッテンボローは笑いながらの手を一瞬だけぎゅっと握った。
(……司令部ではこれが限界だな)
 何しろ、誰が見ているか分からないのだ。


 それでも、士官食堂に行くころにはは冷静さを取り戻したものである。それぞれ食事を手にテーブルに座る。ちなみにの席はテーブルの端だった。
「わたしは端っこなの?」
「こうすれば隣に座れるのはおれだけだろ」
「…………」
 アッテンボローは改めてを見た。
「で、さっきの返事は?」
「謹んで行かせていただきます。いろいろチェックもするけどね」
「…………お手柔らかに頼むな」
「かしこまりました」

 が澄ましてそう言ったとき、もう聞きなれた声が響いた。
「お疲れさまでーす。中佐、今日もおきれいですね」
 そう言うが早いかの正面に座る辺り、もう苦笑するしかない。
「……お前さんは目ざといなあ」
「当たり前です。中佐みたいな美人を見逃すはずがないじゃありませんか」
 必要以上に胸を張る横でいつもの通りコーネフが静かに腰を下ろすので、は笑った。相変わらずである。
「新年のパーティの件はご存じですよね?」
「ええ」
「おれがヤン提督に言ったおかげでパーティができることになったんですよ。感謝してください」
「別にお前さんが言わなくてもパーティはやってたさ。このメンバーで、戦争でもないのに新年のパーティをやらないなんて想像できるか」
「……小官もアッテンボロー少将に同感ですね」

 静かにコーネフまでがそう言ったので、は笑いをこらえるのに苦労した。
「コーネフもアッテンボロー少将も冷たいなあ。でも、中佐はおれの味方をしてくれますよね?」
「えーと、それは……」
「ポプラン、そうやってを困らせるな」
 アッテンボローはとうとうをファースト・ネームで呼び始めたが、とりあえず、ここにそれをとがめそうな人はいない。何と答えるべきかが迷っていると、ポプランはさらに言葉を続けた。
「いいじゃないですか、減るもんじゃないし」
「減る」
「…………」
 事実でないことを堂々と宣言されれば、もう赤面するしかない。

中佐は赤くなるとかわいいですね」
「何でその姿をお前さんに見せなきゃならないんだ、まったく……。あ、また減るもんじゃないからとか言うなよ」
 あらかじめそう先手を打って、改めてを見る。
「ごめんな」
「……提督のせいではありません」
「そうだ、ポプランが悪い」
 ここまで来るともう笑うしかない。は何と言っていいか分からずに沈黙していたが、ポプランはそれを違う方向に解釈したようだった。

「……すみません、中佐。調子に乗りすぎました」
「いえ。別に、怒っているわけでは……」
「そうですよね! さすが……」
「いい加減にしろ」
 即座に言い返すアッテンボローに、は今度こそ笑った。
「まったく、休憩時間なのに気が休まらないじゃないか」
「アッテンボロー少将の気が休まらなくても、小官にはまったく関係ありませんが」
が、だ」
 そもそも、メイヴの幹部たちだと何となく落ち着かないから一緒にいるのである。ポプランが来るのは予想の範囲内だが、それでも……。
「……ちょっと反省します」
「たくさん反省しろ」
 大真面目に言い返すアッテンボローに、コーネフとは顔を見合せて笑った。







2019/6/14up
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